私は下ネタがあまり好きではないと思っていた。
ただ、よく考えてみると、下ネタそのものが嫌いなわけではない。
性的な単語を言うだけだったり、露骨なことを言っただけで笑いになるようなネタはあまり好きではない。一方で、状況や言葉の使い方として面白ければ、下ネタでも普通に笑う。
では、私が面白いと思う下ネタをAIは作れるのだろうか。
これまでAIとは漫才を何本か作ってきた。その中で私がどんなボケやツッコミを好むのかも、かなり伝えている。
だったら、その情報を使えば、私好みの下ネタも作れるのではないか。
試してみることにした。
最初にできた設定
AIが出してきた設定は、
「会社で下ネタが事前申請制になった」
というものだった。
禁止ではない。
許可制である。
下ネタを言いたければ、事前に申請書を提出しなければならない。
この設定はかなり気に入った。
そこで、細かい部分を直しながら一本の漫才にしていった。
完成したものがこちら。
「下ネタ申請」
ボケ:
最近、会社のコンプラが厳しくなってさ。ツッコミ:
まあ、どこもそうだろうね。ボケ:
下ネタが事前申請になった。ツッコミ:
禁止じゃなくて許可制なんだ。ボケ:
言いたい場合は、前日までに申請書を出す。ツッコミ:
何を書くんだよ。ボケ:
日時、場所、対象者、発言概要。ツッコミ:
犯行予告みたいになってるじゃん。ボケ:
この前は概要に「男性器を用いた軽度の比喩」って書いた。ツッコミ:
具体的に何言うか書けよ。ボケ:
それは別紙。ツッコミ:
添付資料あんの?ボケ:
一回、却下されたこともある。ツッコミ:
何がダメだったの?ボケ:
「当該下ネタを発言する必要性が認められない」って。ツッコミ:
まあ、基本ないからね。ボケ:
だから「場の空気を和ませるため」って書いて再申請した。ツッコミ:
通った?ボケ:
「客観的根拠を示してください」って戻ってきた。ツッコミ:
下ネタにエビデンス求めんなよ。ボケ:
過去3年分の下ネタと、そのときの笑い声の大きさを提出した。ツッコミ:
データ持ってんの?ボケ:
そしたら人事から「笑い声の測定方法について確認したい」って電話きた。ツッコミ:
会社も真面目に審査すんな。ボケ:
あと、下ネタには軽度、中度、重度がある。ツッコミ:
何が違うの?ボケ:
軽度は単語だけ。「ちんこ」とか。ツッコミ:
それ軽度なんだ。ボケ:
中度になると具体的な使用方法が入る。ツッコミ:
もう説明しなくていいよ。ボケ:
重度は図が要る。ツッコミ:
何を説明しようとしてんだよ。ボケ:
軽度は課長、中度は部長、重度は役員会。ツッコミ:
経営陣に下ネタ判断させんな。ボケ:
先月、俺のが役員会まで行った。ツッコミ:
重度だったの?ボケ:
PowerPointで図を出した。ツッコミ:
経営陣に何をプレゼンしたんだよ。ボケ:
質疑応答含めて30分。ツッコミ:
質問することある?ボケ:
でも緊急時は事後申請でもいい。ツッコミ:
下ネタに緊急時なんてあるの?ボケ:
この前、部長が「このプロジェクト、最後まで立たせるぞ」って言ったんだよ。ツッコミ:
うん。ボケ:
反射的に「私にはそこまでの持続力はありません」って言いそうになった。ツッコミ:
何の持続力だよ。ボケ:
今ので意味が確定した。ツッコミ:
え?ボケ:
俺だけならまだ曖昧だったのに、お前が意味を完成させた。ツッコミ:
知らねえよ。ボケ:
共同発言になる。ツッコミ:
下ネタに共同責任あんの?ボケ:
誘発した側と完成させた側で責任を按分する。ツッコミ:
事故みたいに処理すんな。ボケ:
今の「事故みたいに処理すんな」は大丈夫。ツッコミ:
何が?ボケ:
下ネタ性がないから。ツッコミ:
いちいち判定すんな。ボケ:
「いちいち判定すんな」は軽度。ツッコミ:
どこがだよ。ボケ:
「どこがだよ」は中度。ツッコミ:
なんで上がったんだよ。ボケ:
部位を尋ねたから。ツッコミ:
もう何も言えねえじゃん。ボケ:
気をつけろよ。重度になると役員会だから。ツッコミ:
重度って図が必要なんだろ?ボケ:
そう。ツッコミ:
じゃあ俺は図なんか使わないから大丈夫だよ。ボケ:
本当に?ツッコミ:
使わないよ。ボケ:
じゃあ説明してみて。ツッコミ:
何を?ボケ:
重度のやつ。ツッコミ:
だから図を使わずにってこと? それとこれがこうなって、こっちから入って――ボケ:
はい、重度。ツッコミ:
違う、図の話だよ!ボケ:
重度発言後の「違う」は抗弁として処理される。ツッコミ:
そんな規定あんの?ボケ:
来週火曜、役員会だから。ツッコミ:
もう決まってんの?ボケ:
資料作るの手伝おうか?ツッコミ:
いらねえよ。ボケ:
図、俺が描こうか?ツッコミ:
絶対いらねえ。ボケ:
共同提案にする?ツッコミ:
下ネタで連名すんな。もういいよ。
「ちんこ」は軽度なのか
この漫才を作っている途中で、AIとかなり真面目な議論になった。
軽度・中度・重度の違いをどうするか。
軽度の具体例として何を出すか。
重度はどこまで直接的に書くのか。
最終的に、
軽度は単語だけ。「ちんこ」とか。
となった。
これを別のAIにも評価させてみたところ、この直接的な表現は「粗品」のような婉曲表現に変えた方が、知的で洗練された笑いになるのではないかという意見が出た。
しかし、私は「ちんこ」のままの方がいいと思った。
そもそも「男性器」では下ネタというより解剖学用語である。
「粗品」では何を指しているのか一瞬考える必要がある。
軽度の例として一発で意味が分かり、
「それ軽度なんだ。」
というツッコミにつなげるなら、「ちんこ」が一番分かりやすい。
しかも、直接的な単語が出てくるのはほぼここだけである。
中度は「具体的な使用方法」。
重度になると「図が要る」。
なぜか下ネタが重くなるほど、文章上は抽象的になっていく。
その方が想像の余地があって面白かった。
というわけで、真剣に検討した結果、
「ちんこ」はここに置くのが妥当
という結論になった。
何を議論しているのだろうか。
下ネタそのものを面白がっているわけではない
完成したものは、かなり私の好みに合っていた。
そして作ってみて分かったのは、やはり私は下ネタそのものが嫌いなのではなさそうだということだった。
この漫才で私が面白いと思っているのは、
「ちんこ」という単語ではない。
下ネタを言うために申請書を書き、必要性を説明し、過去3年分の笑い声を測定し、重度なら役員会でPowerPointを使って説明する。
さらに会話の途中でツッコミまで制度に巻き込まれ、最後には本人が役員会に出ることになる。
くだらないものを、異常なほど真面目な制度で処理している。
私はこういう笑いがかなり好きらしい。
下ネタは、そのための材料の一つにすぎなかった。
そして私は、その材料として使う「ちんこ」という単語をどこに配置するのが最も効果的なのか、AIと真面目に議論していた。
重度になると図が要るので、まだ軽度である。
